筆文字レタリング
よくネタとして知り合いに話すのですが、昔NHKで「プロジェクトX」という番組がありましたが、そのタイトルは筆文字で、私の母が書いたものです。(NHKアートと契約していて依頼された)
何の気なしに見ていますが文字として少し特殊なことが含まれていて面白いのです。
(この先敬称略で記します)
1:漢字かな交じりの書(近代詩文書)
書道マンガ「とめはね!」(河合克敏)を読んでいて
ああ!と思った話がありました。(何年か前にブログに書いています)
第52話(単行本5巻収録)で戦前までは書道は漢字、かな、篆刻以外は認められていなかったのですが金子鷗亭を中心に新しく作られたジャンルとして「漢字かな交じりの書(近代詩文書)」の説明がありました。
彼が始めた創元書道会のサイトによると
「日本の美しい言葉、詩や俳句・随筆といった日常私たちが使う文学の中での感動した言葉を書にしましょう」「分かりやすく読みやすい文字を使いましょう」「漢字書は『大字書』として少ない文字数で読みやすく表現しましょう」といった誰もが親しむことができる大衆の書を訴えたのです」
とのこと。私が子供のころ母は金子鷗亭の弟子の東地滄厓の教室に通っていたのでその名前をよくきいていました。近代詩文書という言葉も当たり前のように聞いていたのですがそれは書道としては面白いジャンルだったのだなとずいぶん経ってからマンガで知ったのでした。
基本がしっかりしていて自由度のある書はタイトルに相性がよさそうですし、カタカナを書くこともあるわけです。
2:立体デザインと英文字レタリング
そもそも母は学歴としては
多摩美術大学のプロダクトデザイン科を出ています。
パッケージ系の卒業制作から東洋製缶に入社
当時平野拓夫が開いた「アワーデザインスクール」という社会人向けの塾があって、そこに通い英文字のレタリングを学んだそうで、「先生はアメリカ人だった」とのこと。
英文字のレタリング、タイポグラフィは深い文化がありますので
その一端でも理解しているというのは「X」の文字の良さにつながっているでしょう。
というわけで
「プロジェクトX」のタイトル文字は
プロダクトデザイン+英文字レタリング+近代詩文書(漢字かな交じりの書)
できているとも言えるかも、と面白がっているのでした。
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書といいますか筆で書いたタイプの看板だとかロゴタイプが存在していますが、それはやはり一回性とか書いた工程を感じる部分があって、いわゆるフォントを使ったものとは違った魅力がありますしオリジナリティーにつながります。
ただ、適当にそれらしく書くだけでは、様にならないものです。
また、書家の書くものがそのまま使えるかというと使う目的の方向に消化することが必要ですし、日本語は漢字、ひらがな、カタカナ、ローマ字、アラビア数字と含まれていてそれらをこなすのも難しい。
母は今もたまーに番組のタイトルや番組内の文字など書いていますが
(あ、もうずいぶん前ですが、LIFE! 人生に捧げるコント の「阿吽の呼吸」にでてくる文字が好き。笑った。)
・デザイン科を出ていること
・英文字レタリングの基礎が分かっていること
・漢字かな交じりの書の発祥と言える書道会で学んだこと
おまけに
・(テレビの素材として使うことが多かったので)納品形式はAdobe Illustratorのベクターデータが可能
は面白い経歴だと思うのです。
現状直接のやりとりはNHKアート以外していないのですが
このあいだ、目的を聞きロゴやシンボルとしての仕上げることはナナヨンデザインラボで引き受けて、素材の文字を書いてもらうというのをやってみました。
書ですから、細かいニュアンスを注文のままに書くのは難しいのですが
書く文字の傾向を知ったうえで依頼していただければ
面白いのが出来るなと手ごたえを感じているのでした。
ではまた。
加藤 雄也
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■補足
加藤 純子
多摩美術大学 デザイン科卒
書道
1988年 第40回毎日書道展 毎日賞
1988年 第24回創元展 特選
書籍
1991年 書体集 遊玄 (マール社 デザイン筆文字シリーズ 絶版)
タイトル文字など
1993 平成5年度 第50作 NHK 連続テレビ小説「かりん」題字
その他諸々